ここではFP(ファイナンシャルプランナー)試験の社会保険について説明していきます。
社会保険の種類と公的医療保険の基本
保険には公的保険である社会保険と私的保険である民間保険があります。社会保険の種類について図的にまとめたものが下図になります。
社会保険の中にある公的医療保険には、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度があります。
- 健康保険:会社員とその家族が対象
- 国民健康保険:自営業者等とその家が対象
- 後期高齢者医療制度:75歳以上の人が対象
保険制度の説明に入る前に、基本的な用語について3つまとめておきます。
- 保険者:保険会社の運用主体のこと
- 被保険者:保険の対象となっている人
- 被扶養者:一般的に日本に住所があり年収130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)かつ被保険者の年収の2分の1未満である被保険者の扶養家族
健康保険
健康保険の概要としては、被保険者とその被扶養者に対して、労災保険の給付対象とならない病気やケガ、死亡、出産について保険給付を行う制度です。また、全国健康保険協会が保険者となる全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)と、健康保険組合が保険者となる組合管掌健康保険(組合健保)の2つがあります。
- 協会けんぽ:保険者は全国健康保険協会で、被保険者は主に中小企業の会社員
- 組合健保:保険者は健康保険組合で、被保険者は主に大企業の会社員
保険料は被保険者の標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を掛けて求め、求めた金額を会社と被保険者で労使折半(半分ずつ負担)します。また、保険料率は協会けんぽと組合健保で異なっていて、協会けんぽでは都道府県ごとに、組合健保は一定の範囲内で組合が決めることになっています。
産休・育休中の社会保険料は免除されており、産休期間中である産前6週間、産後8週間(多胎妊娠の場合は産前14週間、産後8週間)および育休期間中である3歳までの子を養育するための育児休業期間は被保険者と事業主ともに免除されます(事業主の申出が必要)。
健康保険の主な給付内容については以下になります。ここからは健康保険の給付内容について1つずつ説明していきます
- 療養の給付、家族療養費
- 高額療養費
- 出産育児一時金、家族出産育児一時金
- 出産手当金
- 傷病手当金
- 埋葬料、家族埋葬料
1.療養の給付、家族療養費:日常生活の病気やケガでは、診察や投薬などの医療行為を受けることができ、被保険者と被扶養者は一定の自己負担額で済みます。自己負担割合は、6歳以上70歳未満が3割、6歳未満は2割になっています。
2.高額療養費:月額の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合は、その超過額について請求すると、あとで返金を受けることができます。同一月・同一医療機関の窓口における支払額は自己負担限度額までとなり、70歳未満の自己負担限度額の計算以下になります。
3.出産育児一時金、家族出産育児一時金:被保険者や被扶養者が出産した場合は、産科医療補償制度に加入している病院などで出産した場合、1児につき50万円(2023年4月以降)が支給されます。
4.出産手当金:被保険者が出産のため仕事を休み、給与が支給されない場合は出産前6週間、出産後8週間に支給され、支給額の算出は以下のようになります。
5.傷病手当金:被保険者が病気やケガで会社を3日以上続けて休み、給料が支給されない場合に4日目から通算して1年6ヶ月間支給され、支給額の算出は出産手当金同様以下のようになります。
6.埋葬料、家族埋葬料:被保険者が死亡した場合、葬儀をした家族に対して5万円が支給されます。また、被扶養者が死亡した場合は、被保険者に5万円が支給されます。
被保険者が会社を退職した際、もともと健康保険に2か月以上加入していて、かつ退職日の翌日から20日以内に申請をすると、退職後2年間は退職前の健康保険に加入することができ、この被保険者のことを健康保険の任意継続被保険者といいます。しかし、この場合は保険料が労使折半とならないため、被保険者が全額負担することになります。
国民健康保険(国保)
健康保険や共済保険などの適用を受けていない、自営業者や未就業者などの市区町村に住所があるすべての人を対象とした保険となります。
都道府県と市区町村が共同で保険者となる場合と、国民健康保険組合が保険者となる場合があり、保険料は市区町村によって異なります。健康保険と違い一般的に出産手当金と傷病手当金がありません。
後期高齢者医療制度
75歳以上(もしくは65歳以上75歳未満の障害認定を受けた人)が対象となります。健康保険や国民健康保険の被保険者は75歳に到達すると後期高齢者医療制度の被保険者となります。自己負担額は医療費の1割(一定以上所得のある人は2割、現役並み所得者は3割)です。
保険料は各都道府県の後期高齢者医療広域連合で決められ、原則として年金からの天引きで徴収されます(年額18万円以上の年金を受け取っている人が対象)。また、保険料の徴収は市区町村が行います。
退職者向け公的医療保険
退職後に再就職しない場合でも、何らかの保険に入る必要があります。再就職しない場合の退職者向けの公的医療保険には、以下の3つがあります。
- 健康保険の任意継続被保険者になる:これについては上の健康保険の最後で説明したので省略します。
- 国民健康保険に加入する:退職日の翌日から14日以内に市区町村に申請します。国民健康保険ですので保険料は全額負担になります。
- 家族の被扶養者となる:健康保険の被保険者である親や子、配偶者の被扶養者になることです。被扶養者ですので保険料はありません。
公的介護保険
介護が必要であると認定された場合に、必要な給付がされる制度のことを介護保険といいます。公的介護保険の保険者は市区町村となり、被保険者の対象者は40歳以上になります。60歳以上の人を第1号被保険者、40歳以上64歳未満の人を第2号被保険者といいます。表としてまとめたものが下になります。
労働者災害補償保険(労災保険)
業務上や通勤途上における労働者の病気やケガ、障害、死亡などに対して給付が行われる制度のことを労災保険といいます。また、業務上における病気やケガ、障害、死亡などを業務災害、2以上の会社の業務を要因とする病気やケガ、障害、死亡などを複数業務要因災害、通勤途上における病気やケガ、障害、死亡などを通勤災害といいます。労災保険の主な内容は以下のようになります。
・対象者:すべての労働者(経営者である社長や役員は含まない)
・保険料:保険料は全額事業主が負担、事業の内容ごとに保険料率が決まる
・主な給付内容
休業補償給付ー労働者が病気などで休業した場合に4日目から給付基礎日額の60%相当額が支給される
傷病補償年金ー労働者が業務上のケガや病気で療養し、療養開始後1年6ヶ月経過しても傷病が治っておらず、傷病等1級から3級に該当する場合に支給される
また、社長や役員、自営業者など、労働者ではないため労災保険の対象となりませんが、一定の場合には労災保険に任意加入ができる制度があり、その制度のことを特別加入制度といいます。
雇用保険
労働者が失業した場合などに必要な給付を行ったり再就職を援助する制度のことを雇用保険といい、主な内容は以下になります。
- 対象者:すべての労働者(経営者である社長や役員、個人事業主、またその家族は加入できない)
- 保険料:保険料は事業主と労働者で負担、保険料率と負担割合は業種によって異なる
- 給付内容:1.基本手当 2.就職促進給付 3.雇用継続給付 4.育児休業給付 教育訓練給付
ここからは雇用保険の給付内容について上記の数字の割り振られている4つを説明しようと思います。
1.基本手当:働く意思と能力はあるが失業している人に対する給付であり、一般に失業保険とよばれています。
・基本手当の給付額と給付日数:労働者が失業した場合に離職前6か月間の賃金日額(離職前の6か月間に支払われた賃金総額÷180日)の45~80%が支給されます。また、給付日数は失業の理由や被保険者期間、年齢によって異なります。
・受給条件:離就前の2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることで、倒産や解雇などの場合には、離就前の1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あれば受給できます。
・待機期間と給付制限:基本手当を受けるには、居住地のハローワークに離職票を提出して求職の申込みを行います。また、求職の申込みを行った日から7日間は支給がされないことを待機期間といい、自己都合退職の場合には待期期間に加え、原則2か月間は支給されず、このことを給付制限といいます。
2.就職促進給付:再就職の促進と支援を目的とした給付であり、一定の要件を満たした基本手当の受給者が再就職した場合や、アルバイトなどに就業した場合に支給されます。
3.雇用継続給付:高齢者や介護をしている人に対して必要な給付を行い、雇用の継続を促すための制度のことをいいます。雇用継続給付には、高年齢雇用継続給付と介護休業給付があり、それぞれについてまとめたのが以下になります。
- 高年齢雇用継続給付:被保険者期間が5年以上の60歳以上65歳未満の被保険者で、60歳到達時の賃金月額に比べて75%未満の賃金月額で働いている人に対して、各月の賃金の最大15%相当額が支給されます。
- 介護休業給付:家族が介護するために休業した期間、支給対象となる家族について、93日間を限度に3回までに限り、休業前の賃金の67%相当額が支給される。
4.育児休業給付:育児休業給付には育児休業給付金と出産時育児休業給付金に2つがあり、それぞれについてまとめたのが以下になります。
- 育児休業給付金:満1歳未満の子(一定の場合には1歳6か月または2歳未満の子)を養育するため育児休業を取得した場合には、休業開始前賃金の67%相当額(6ヶ月経過後は50%相当額)が支給されます。
- 出生時育児休業給付金:子の出生日から8週間経過日の翌日までの期間内に4週間以内の期間を定めて、子を養育するため出生時育児休業を取得した場合に、休業開始前賃金の67%相当額が支給されます。
まとめ
以上が社会保険の説明でした。今回は内容がとても長いので大変かもしれませんが、知っておけば必ず役に立つことだと思うので、FP試験を受ける受けないに関わらず一度はしっかり目を通しておくと良いと思います。
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